奈良市にある「学びのフリースペース小草(おぐさ)」は、
不登校や生きづらさを感じる子どもたちのための居場所です。
近鉄奈良駅から徒歩数分の雑居ビルの一室。
そこでは、学校に通えない中学生たちが、週に一度、自分のペースで学び直しています。
この活動を支えているのは、元中学校教員の松田秀代さん。
「一番大切なのは、助けてと言えたときに、一緒に考えてくれる人がいること」と語ります。
子どもにとって“居場所”とは、ただ机と椅子がある空間ではなく、
「安心して自分を出せる人がいる場所」なのです。
不登校の増加とコロナ禍の影響
文部科学省の統計では、2020年度の不登校児童生徒数は約20万人と過去最多。
さらに、感染回避や精神的ストレスなどの理由で学校に行けない子どもも加えると、
「学校離れ」ともいえる社会現象が広がっています。
教育現場ではこれを“エクソダス(大量脱出)”とも表現しています。
それは、学校という場が、もはや全員にとって
「安心な場所」ではなくなっていることを示しています。
「多様な学びの場」の必要性
こうした現状に対して、元文科省事務次官の前川喜平さんは次のように述べています。
「『小草』のような学校外での学習にも公的支援を行い、
義務教育に相当する教育と無償性をどう両立するかが、これからの課題になる」
つまり、今後は学校だけでなく、地域や民間が担う「もう一つの学び場」も、
正式な教育の一環として社会が認めていく必要があるのです。
田村隆幸さんの実践から学ぶ
この学び場を立ち上げたのは、38年間にわたり中学校教員を務めた田村隆幸さん。
「子どもの課題は、教育だけではなく、貧困や家庭環境、社会の構造と密接に関わっている」
という視点で、地域に根ざした教育支援を行ってきました。
フリースペース小草は、子どもたちの「いま」と向き合いながら、
やがて「やさしさを受け取った子どもたちが、次の誰かにそのやさしさを渡していく」
そんな未来を信じて運営されています。
おわりに
学校以外の学び場は、今を生きる子どもたちにとって、
「選べる安心」として、社会のセーフティネットの一部となっています。
その存在が広く認められ、制度として支えられていく未来を、私たち大人もつくっていきたい。
そう思わせてくれる実例が、ここ奈良にあります。
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