ごあいさつ

 みなさんこんにちは。私たちの活動に興味を持っていただき、このHPを開いてくださって心から感謝申し上げます。

 特定非営利活動法人 市民ひろばなら小草(略称市民ひろば・小草)は、『ひとりひとりが生きやすい社会』を目指して、主に教育面での活動を広範囲で行うために2017年に結成しました。

 でもなぜ小さなNPO法人が、このような大きな目標を掲げることになったかという背景を簡単に説明します。

 私たちの多くは、奈良市の小中学校で長年働いていた教員でした。学校現場で様々な子どもたちや様々な人たちと出会います。なかには学校という大きな集団では息苦しさを感じてしまう子どもたちもいました。

 

【多文化共生社会を模索して】

1990年代後半から2000年代にかけて、小学校や中学校には外国から渡日してきた子どもたちが急速に増えてきました。彼らの中には、なぜ自分がここにいるのか、自分は何者なのかさえわからない中国残留日本人の家族が多くいました。言語的文化的にマイノリティーの立場では、日本の学校という一律的教育の場になじみにくく、同様に子どもたちの親や家族たちも日本語を使わないでもいい単純な仕事をこなしてくたくたになっていました。

 私たちは、彼らがこの社会での生きづらさを抱えていることに対して、彼らと一緒に取り組めないだろうかと考えて「ルーツを中国に持つ子と親の会 シャオツァオ(小草)」を立ち上げました。今も毎週日曜日には集まって、日本語学習やお楽しみ行事、さらに母語でもある中国語の学習に取り組んでいます。

 

【貧困と格差の連鎖に市民レベルで抗いたい】

それから5年がたった頃に、同じメンバーで今度は「無料塾」を作りました。理由は簡単です。多くの小中学生が放課後に行っている「学習塾」は、結構なお金がかかる。それでもその学習塾に行くことで成績を上げて進路が決まっていく。でも経済的に困窮している家庭では、いくらみんなと同じように学習塾に行きたいと思っていても、家庭の経済力で学習塾に行けない子もいるからです。それが成績に現れ、それで進路も決まっていく。まるで経済的な格差が学力の格差になり、さらに次の経済格差につながるという、「格差の連鎖」のように。

 時はあたかも「子どもの貧困」問題が注目されてきた頃でした。日本の「子どもの相対的貧困率」は7人に一人の割合だと言います。僕たちがかかわってきていた外国から渡日した子どもたちの親たちにも同様に「学習塾に行かせてやれない」と嘆いている姿がありました。これは外国から渡日した人たちだけに限りません。

 そこで私たちは、放課後の「無料学習塾」を作ることにしました。今度は家庭の経済事情で学習塾に行けず、本人が勉強したいなら、だれでも無料で入れる「無料学習塾」です。

 でも私たちは、現役の学校の教員をしています。いくら無料塾だといっても勉強を教えられる余裕はありません。学校は忙しく、先生が仕事を終えて帰宅できるのは優に8時を回っているからです。だったら多くの人の力を借りようと考えました。

 呼びかけたところ、学習をサポートしてくれるスタッフには大学生のスタッフがボランティアで参加してくれ、その学生さんを送迎するスタッフが現れ、さらに場所も公民館が借りられ、無料の学習塾「すみれ塾郡山教室」が開設されました。こちらは今も毎週火曜日と金曜日に開催しています。

 さらにすみれ塾はもう一つ奈良教室も生まれました。

 私たちに舞い込む相談が徐々に増え、そのなかに「不登校傾向」の子どもさんたちが急速に増え始めたからです。

 こうやって不登校の子が放課後に学ぶ「すみれ塾奈良教室」も開設することになりました。こちらは毎週月曜日と金曜日に開設しています。1月から3月までの間は運営を続けるための街頭募金活動にも精を出しますが、これまたたくさんの市民の協力がなければ成り立たなかったでしょう。

 たくさんの市民の協力を得るためには、社会的に認められる存在にならなければならないと考え、これまではボランティア活動をする教員の有志のグループだったものを、特定非営利活動法人にすることにしました。事務所も借りて、多くの人に相談もし、「平和」や「人権」「教育」の分野での講演会やイベントも開催するようになりました。

やがてコロナ禍になり、不登校の子どもたちはみるみる増加しました。

 

【毎年のように増える不登校は、炭鉱で鳴くカナリアと同じ】

 私たちが次に取り組んだのは、様々な立場で「生きづらさ」を感じている人たちを支え、手をつなぐことでした。不登校生の人数は2021年には19万6000人と過去最高を更新し、2022年には24万4900人を超えています。不登校生は炭鉱で鳴くカナリアのように社会の危険を警告する役割だと言われますが、この多さはまさに何かを訴えているようです。私たちも否応なく、学校では生きづらさを感じていけなくなった子どもたちと向き合い、まずは学校以外の居場所を作ることにしました。その第一歩として、2020年に「無料のフリースクール」も開校しました。それが「学びのフリースペース小草」です。ちょうど、コロナ禍によって全国一斉休校になった年でした。その時の子どもたちはその後、3人が高校に進学し、1人が自分の学校に通学できるようになりました。

 ですが、学校に行くことが正しいというわけではありません。「普通教育」は学校が独占しているだけで、「生きづらさ」を感じる場なら行かなくてもいい。その代わりに、様々な場で普通教育が保障されていかなければならないと私たちは考えていますし、すべての人に普通教育を保障すると憲法がそう謳っています。そしてそのなかの「義務教育」は「無償」で行われなければ「すべての人に保障」することはできません。

 だから「学びのフリースペース小草」は、義務教育を受ける権利の保障をするために立ち上げました。小中学校で生きづらい人の居場所として「無料で学びを保障」しようと、現在平日の昼間に奈良市歌姫張で開催しています。今(2023年6月現在)15人ほどが入れ代わり立ち代わりやってきては、それぞれのスタッフと学習活動その他の活動をしています。相談に訪れる人はその何倍もいます。

 ただ、これで終わりではありません。義務教育は終了したものの、高等教育を受けられなかった人やそこから挫折した人たちからの相談も相次いています。学校は卒業したらそこで関係は終わりますが、実際には生きづらさを抱える人の人生は小中高と連続していきます。そこで私たちは「学びフリースペース小草」を卒業してからも、いつでも受け皿としてりようできるよう高校生の学び直しの場「優月アカデミー」を開設しました。2024年春からは正式に通信制高校との連携施設として開設します。「学びのフリースペース小草」が小草学園の第一歩とするならば「優月アカデミー」はその第二歩にあたります。さらに、高校は卒業したけれど、どうしたらいいかわからないという人も相談に来られます。不登校経験者に限らずすべての「生きづらさ」を支えあえる「小草学園」構想は、将来的に第三歩目に、成人となった方ともつながった社会の中の居場所となりえることを目標としています。

 2021年からは、私も定年退職を迎え、昼間は「小草学園」、夜は「すみれ塾」、日曜日は「ルーツを中国に持つ子と親の会シャオツァオ」の活動に奔走しています。

 

でもこのような活動は、どこからも資金が得られません。無料塾も無料フリースクールも利用者は無料で利用できます。この活動をやめるわけにはいきません。持続可能な活動にしなければ意味がないからです。

 理念は、「支えあい」です。社会全体でこの社会を生きやすい場に替えていきたいのです。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」。使い古されて言葉かもしれませんが、できるだけ多くの方に、少しずつ力を分けてもらって、運営していける社会でありたいのです。自分は直接活動に加わることはできないという方でも、毎月1000円ずつからの継続的な寄付で、私たちの活動を支えてもらえたら、やがて子どもたちは成長して、また次の世代の育成に貢献してくれるはずです。

その思いを共通の願いとして、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

                    理事長  田村 隆幸